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【大切なお知らせ】こちらの記事は、柏原が独自調査した「一次情報」です。専門家や有識者による無断使用、剽窃は固くお断りします。尚、内容の転載を行う場合は、立場に関わらず必ずご連絡をお願いします。

青淵文庫(読み:せいえんぶんこ)

青淵文庫のタイルを語るにあたり、まずは知って頂きたいことが2つあります。

①有識者により過去に書かれた記事が「泰平タイル」に寄り過ぎており、こちらの建物で使われているタイルが「泰平タイルのみで構成されている」と思われがちです。

②「泰平タイル」・「泰平居」・「泰平窯」、全て「泰平」が付き混同されがちですが、それぞれ別の意味を持ちます。こちらも有識者により過去に書かれた記事において極めて混同されています。

「泰平タイル」は、辻製作所窯業部により京都五条坂で機械生産されたタイルです。辻製作所窯業部は当初「泰山式タイルを機械生産する為に作られた組織」でしたが、タイルの完成度に池田泰山が納得せず、武田五一の発案で別組織としてタイル製造を行うことになりました。新組織の責任者に武田五一の部下であった福田直一が就任し、その福田直一が中心となり活動を行っていた陶磁器製作集団「泰平居」から名前を取り「泰平タイル」としました。辻製作所社長の辻常吉は泰平居への出資も行っていた為、福田直一が組織の中心となることは必然的でもありました。

「泰平居」とは、池田泰山、平野耕輔、二人を慕う若手陶芸家たちによって作られた陶磁器製作集団です。泰平居の名前の由来は、「池田泰山」の「泰」、「平野耕輔」の「平」、二人の名前の頭文字から付けられました。平野耕輔は陶磁器試験所の釉薬技師で、当時活躍した一流陶芸家、河井寛次郎、清水六兵衛、濱田庄司、バーナードリーチなどから一目を置かれる「釉薬の専門家」でした。

尚、泰平居は、有識者により過去に書かれた記事に「俊山窯」にて焼成されていたとの情報がありますが、実際には「東山区泉涌寺東林町」の共同窯にて焼成されていました。実はこの窯の使用に関する組合の取り決めこそが、この間違った情報が語られる要因でもあります。

共同窯を使用する際には、都度、借主(使用者)の名前が使われ窯を識別することになっています。仮に俊山さんが使う際には「俊山窯」と呼ばれ、東山さんが使う際には「東山窯」と呼ばれていました。泰平居は俊山さんが借りた窯をシェアする形で使用していた為、契約上では借主である「俊山窯」にて焼成したことになっています。ただし福田直一ら泰平居のメンバーはシェアは対等であり、「泰平窯」で焼成した旨の発言や記録を残している為、それぞれの認識の違いが生まれ、間違いや混乱に繋がりました。

ちなみに、この製作集団は、ある意味「窯の使用」をする為の組織でもありました。(同じ時代に「時習園」など様々な製作集団が活動していたのはそのような理由もあります。)共同窯は資金面はもちろん、信用面からも若手作家は簡単に借りることが出来ませんでした。さらに大型の共同窯で焼成する際には、ある程度の作品数を窯の中へ詰める必要もありました。


では本題へ。この時代のタイル製造は、各社、大量生産が出来る設備がまだまだ乏しく、一社で建物全ての製造を担うことは出来ませんでした。その為、同じ意匠のタイルを、複数の会社で分けて製造することが一般的でした。しかしこちらの建物の場合、タイル製造を担った一社である辻製作所窯業部(泰平タイル)が、あたかも全て泰平タイルかのような誇張した実績紹介や広告を出した為、結果的に偏った情報が今に伝わってしまいました。理由は各社がライバル関係であったこと、また辻製作所窯業部にとって初めてのプレス機(乾式)による大規模生産であった為、実績を広くアピールしたかったことが挙げられます。(当時の広告は、誇張した記事やでっち上げの内容が多く存在しています。)

青淵文庫に使われているタイルは、福田直一が「泰平居」にて製作した意匠「どんぐりの葉」を元に、泰山製陶所にて石膏型を製作、その石膏型から完成したタイルを元に辻製作所窯業部がプレス用金型を作り機械生産を行った経緯があります。この金型から機械プレスで作られたタイルは「泰平タイル」として出荷されました。(柏葉にどんぐりの意匠は渋沢家の家紋からも発想を得たと言われています。)

泰山製陶所の資料によると青淵文庫で使われた「柏葉にどんぐり」意匠のタイルは、内装の一部に当社製作の泰山製陶所製のタイルが使われた旨が記録されています。つまり青淵文庫の建物には泰山式タイルと泰平タイル、二社のタイルが納入施工されていることが判ります。

青淵文庫の建設は、田辺淳吉と清水組の協力で建てられた「日本倶楽部」の成功を元に計画されました。日本倶楽部と言えば、泰山製陶所の広告によると「泰山式タイルが初めて使われた建物である」と紹介されています。つまり泰山製陶所と清水組の特別な関係で作られた建物「青淵文庫」において、泰山式タイルが使わないことは考えられないのです。

泰山製陶所の広告で日本倶楽部で泰山式タイルが初めて使われたことになっていますが、泰山製陶所に残る記録では、それより以前に複数の建物で泰山式タイルが使われていたことが判っています。これは先に述べたように、当時の広告には会社を大きく見せるような「実績の誇張」や「虚偽まがいの広告」が出されたことに関係します。

泰山製陶所は清水組からの大型受注と関係強化の為、その関係に忖度し、泰山式タイルを使用した「初」の事例を捧げたのです。この広告は泰山製陶所が人気を得てからも度々使われ、清水組との関係がより強固なものへと繋がって行きます。つまり「泰山式タイルを使いたければ清水組」と言うことが世間に大きくアピールすることができ、それにより「清水組は泰山製陶所に受注する」と言う、両者が得をする関係が築き上げられました。

ただ、人気になり過ぎた泰山製陶所はのちに清水組の発注を受けることが出来なくなります。清水組は苦肉の策として、泰山製陶所に一旦発注(アリバイ作り)をした上で、別の製陶所に製造をお願いするようになります。これは施主の「泰山式タイルを使いたい」と言う意向に沿う為でもあります。しかし池田泰山は、他の製陶所が「下請け製造」を行ったタイルを泰山式タイルとして出荷することを絶対に許可しませんでした。

その代表事例が「綿業会館のタイルタペストリー」なのです。綿業会館、ホテルニューグランド、共に泰山製陶所のタイルが使われているとの逸話が残りますが、結果的に製造を行ったのは「宇野製陶所」です。ニューグランドに関しては、どのような経緯か判りませんが、舶来品主義のような発想?により、現在まで「イタリア製のタイル」として伝わっています。


【泰山式タイル】 

レリーフタイル 手起こし 手による塗分け施釉 土色(砂半纏)目地

役物タイル 手起こし 象牙釉 土色目地

【泰平タイル】 

レリーフタイル 半乾式プレス機生産 手による塗分け施釉 土色(砂半纏)目地


「半乾式」とは、辻製作所窯業部が池田泰山の提案で取り入れた製造方式です。プレス機による形成は通常「乾いた状態」の磁器質材料をプレス機で押し固める方法です。この方法では、釉薬を塗った際、タイル生地が硬い為、浸透(染み込み)が悪く流れ落ちてしまいました。これにより作られたタイルは釉薬が薄く、一般的な機械製造によるタイルとして仕上がってしまいました。

「青淵文庫」の為に作られたタイルは、レリーフ部分に釉薬がしっかりと乗る(ふっくら)必要があった為、池田泰山は乾式プレス機による製造であっても、100%磁器質素材は使わず、湿式で使われる粘土質の素材を少し混合させるように提案したのです。しかしその方法でプレスした際、金型からタイル生地が剥がれ落ちず、結果的に手で補助をしなければならない状況になります。これでは機械生産の意味が全くありません。

結果的に機械による大量生産であっても、手(竹へら)による補助が必要となった為、計画では建物全体を覆う予定であったレリーフタイルは、建物の柱部分など一部に留まりました。

青淵文庫オフィシャルの解説では「泰平居」がタイルを作ったことになっていますが、泰平居はタイル製造を行っていません。泰平居は若手陶磁器作家数人で構成された小規模集団です。小型の陶磁器製品や壺、皿、香炉、帯留めなど、芸術性の高い実用品が作られ、清水坂の個人陶磁器店で販売されました。そこで得られたお金は、共同窯の使用料や展覧会の会場費用に使うなど、小規模でありながらも精力的な活動を行っていたことが判っています。尚、有識者により過去に書かれた文章では、泰平居の作品を辻製作所社長の辻常軌吉が販売していたことになっていますが実態は違います。販売をしていたのではなく「活動資金を出資」していました。販売を行っていたのは、あくまでも五条坂の陶磁器店とのこと。若手作家達が地域の陶磁器店を応援する為に、あえて地域の陶磁器店で販売することに拘っていました。(現代では、お店が若手を応援する逆パターンはありますが、この時代は作家、お店、出資者、どれぞれ立場や役割が切り離されて考えられていました。)泰平居の製品を扱ったお店は現在も営まれています。泰平居や辻常吉との関係など当時の詳しいお話を「資料と共に」語って頂きました。(思い出話や武勇伝などを含む「口伝」ではなく、事実に基づいた資料と共にお話を伺いました。)武田五一がお店に訪ねてきた逸話など、大変興味深いお話を聞かせて頂きました。

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