【大切なお知らせ】こちらの記事は、柏原が独自調査した「一次情報」です。有識者や研究者による無断使用、剽窃は固くお断りします。内容の転載を行う場合は、立場に関わらず必ずご連絡をお願いします。
【泰山タイルツアー:神戸編】レポート
街なかの泰山式タイルを求めて歩く「泰山タイルツアー」。2021年の初開催以降、ツアー開催は80回を超え、のべ1500人以上の人にご参加をいただいています。過去の訪問先はなんと128スポット!そのうち8割は柏原が発見し初訪問したスポットなのです。凄い!(自画自賛)
多くの泰山式タイルファンにご支持をいただいている「泰山タイルツアー」。今回は「神戸編」を開催しました。普段は訪問先への配慮などからレポートをすることは難しいのですが、神戸は誰でも訪問して頂けるスポットが多く、また是非訪問をして頂きたいスポットもあり、レポートをさせていただきました。
毎度お願いしていることではありますが、見学の際は最低限のマナーとモラル、街と街の人への配慮をお願いします。写真撮影とSNS投稿の際には、必ず所有者の許可を得るようにして下さい。尚、専門家、研究者と名乗る人による悪質な情報搾取、同業他社のパクり企画はご遠慮下さい。過去に柏原を誹謗中傷した人はこちらへ。
導入「泰山式タイルっぽい」
神戸にはたくさんの近代建築が残っていますが、その建物内で「泰山式タイルっぽい」タイルが多数確認されています。「っぽい」と言われてしまうのには理由があります。泰山製陶所の公式記録に記録が無いのです。
神戸方面で使われた泰山式タイルは、泰山製陶所直轄の取引はとても少なく、ほとんどが特約店を通しての納入施工でした。つまり特約店の記録を確認しなければ、正式に納入施工された場所が判らない状況なのです。この特約店を通しての取引は、個人邸宅や小規模建築では普通のことではありますが、神戸(兵庫県)の場合にはなぜか大規模建築でも特約店を通しての取引が基本となっていました。
理由は特約店がとても大きな力を持っていたためです。兵庫県内の建物で泰山式タイルが使われた建物は、旧甲子園ホテルをはじめ、乾邸、ジェームス邸など、泰山製陶所にとり重要かつ大口の取引先ばかりでした。のちに泰山製陶所最大のスポンサーになる芝川又右衛門の邸宅もそのひとつです。その芝川又右衛門を池田泰山に紹介をしたのが、兵庫県を担当していた特約店(特約店の名前は非公表とさせて頂きます)のご主人でした。
この出会いは芝川又右衛門邸を武田五一が設計するきっかけにも繋がります。ある意味フィクサー的な役割を担っており、その人物抜きで泰山製陶所の製品を兵庫県の建物に納入することは難しい状況でした。その為、泰山製陶所も配慮と言う名の「忖度」を行っていました。
その特約店を通した建物には、優先的に泰山式タイルが納入され、また質の良いランクのタイルや一点物、特注品、新しく開発された陶磁器製品などが納入され使われました。その影響力は兵庫県のみならず、西日本、四国、九州へと広がっていきます。
兵庫県の建物で、その特約店を通さず泰山式タイルが施工された大規模建築は記録上では「兵庫県庁舎」(入札制の公共工事)一箇所のみです。

1.「街かどに残る泰山式タイル」(住所:神戸市兵庫区湊川町5丁目4番地)

まずは街かどに残る泰山式タイルから。西日本最大の遊郭として知られた「福原遊郭」。その街はずれに残る建物には、いかにも泰山式タイルを思い起こさせるようなカラフルタイルや布目タイルが張られています。どんな経緯で誰が張ったのでしょうか?
この建物の関係者にお話を伺いました。こちらの建物は福原遊郭で働かれている人が住む従業員寮として過去に使われていたとのこと(現在は違います)。福原遊郭の建物も建てた工務店の記録が残ります。建物前面にカラフルなタイル、1階と2階の間には茶色を中心とした渋めのタイル、2階部分には小ぶりな丸型ステンドグラスが確認出来ます。まさに遊郭に関連する建物の雰囲気です。


1-1.「窯変まがい」
タイルに目を向けると、7.5号角、手起こしのタイルが張られています。こちらを泰山式タイルであると確定できたのは、一部にタイルが剥がれた部分があり、その部分から泰山式タイルのマークである「上部分が切れた三重丸に泰の字」の手押し刻印が確認出来た為です(現在は修復済み)。また建物内から修復用に残された泰山式タイル(刻印あり)も複数見つかっています。

最も注目したいことは、一見、ガムテープでも張られているかのように見えるこちらのタイルです。これは釉薬が二重に塗られている状態です。一度、釉薬を塗り焼成したタイルの上から、もう一度別の釉薬を塗り、再び焼成しています。二種類の釉薬を使い、まるで一種類の釉薬が窯変を起こしているかのように見せる特殊製法です。陶磁器試験所が開発をし、泰山製陶所が実用化しました。
本来、窯変はこのような必然的な方法で作り出すものではなく、釉薬特有の化学変化、窯内の温度管理(焼成レシピ)、窯内に残るガスによる蒸らし、天気、温度、湿度、大気状況など、自然環境も含めた偶然性によるものです。ただし、この窯変を作り出すことがとても難しいのです。戦後、釉薬の素になる薬品材料の高騰やその使用に関する法律的問題、窯の環境、公害問題(有害な煙が出る)、焼成する燃料(木材)の量と質の低下で、泰山製陶所が思うような理想の窯変が出なくなりつつありました。石炭窯からガス窯への変化はその大きな理由のひとつです。(ガス窯では炎が安定し過ぎて、自然な温度変化が得られませんでした。逆にガス自体が望まない科学変化も起こしました。)その結果、新たに開発された技術が、釉薬を重ねることにより必然的に「窯変っぽい雰囲気」を作り出す「窯変まがい」の製法です。
陶磁器試験所の記録にはこの「窯変まがい」の研究が進められていたことも書かれています。ただし「相応しくない」とも記録されています。昭和初期にすでにそれが研究されていたことは、先に述べたように「いずれ窯変が環境的に困難になること」が予見されていたのかもしれません。


1-2.「四角く不自然な塗られ方の意味」
一度、釉薬を塗り焼成し、その上にもう一度釉薬を塗り焼成する。これにより通常の窯変のように「一つの釉薬から複数の色や斑が発生する」効果が得られる訳です。
ここで疑問になるのが、二つ目の釉薬がまるでガムテープが張られているかのように「四角く不自然な塗られ方」をされていることです。釉薬の試験をしたようにも見えますがそうではありません。より自然な窯変を表現する為に試行錯誤した表れなのです。
一度、釉薬を塗り、その上から別の釉薬が塗られれば、単に二重に塗られるだけです。つまり茶金釉の上から白マット釉が塗られれば、結果的に白マット釉の仕上がりになります。
この一部分に釉薬を塗る方法の場合、二つ目の釉薬を塗った後、釉薬の斑を作りたい方向へ傾けて焼成を行います。これにより窯の中で釉薬が溶け、傾けた方向へ流れ濃淡が起きます。白マット釉は自然な形で重なり、まるで窯変が起きているかのように見せることが出来ました。(トーストの上にバターが置かれた状態を想像していただけると判りやすいと思います。四角く塗られた釉薬はいわゆるバターなのです。)
その試行錯誤をした部分が、この四角く塗られた跡になります。こちらのタイルの場合、それが著しく失敗した例でもあります。二つ目の釉薬の粘度が強すぎた上、乾燥時間の管理も上手くいかず、釉薬の流れが全く起きなかったのです。
この「窯変まがい」の方法は、釉薬のコストを抑え、高見えするタイルが生み出されることが期待されましたが、あまりにも失敗が多く泰山製陶所で本格実用されることはありませんでした。焼成温度の管理が繊細である泰山製陶所の釉薬は「ガラス化」することもあり、コストだけが嵩み良い結果が出ない失敗例として記録されています。この失敗タイルが実際に使われていることはとても珍しく、それを街角で見られる唯一の事例ではないかと思います。
尚、この建物と同じ工務店が作った福原遊郭の建物は現存し、同じ方法で作られた成功例の泰山式タイルが使われています。そちらの建物見学も検討しましたが、現在はエステ店を経営されており、所有者から遠慮して欲しいとお返事がありました。
1-3.「湊河湯」(住所:神戸市兵庫区東山町2-3-5)

こちらのタイルスポットを発見し教えてくださったのは、京都五条楽園のお風呂屋さん「サウナの梅湯」を経営する、ゆとなみ社社長の湊三次郎さんです。すぐ近くに、ゆとなみ社が経営する銭湯「湊河湯」があります。大変良い銭湯なので、タイル見学の際には是非お立ち寄り下さい。
2.「兵庫県庁西館」(住所:神戸市中央区下山手通5丁目10-1)

兵庫県庁舎には泰山式タイルが納入施工された記録が残ります。兵庫県内唯一の泰山製陶所「直轄」の納入施工の事例です。
2-1.「クレイプタイル」


こちらの外壁タイルは「大阪窯業」で作られた際、泰山製陶所の技術が使用されたことが判っています。タイル表面に「藁を押し付けた」ような意匠は、泰山製陶所が開発した「クレイプ」と言うスタイルのタイルです。
2-2.「四丁掛け施釉タイル(葱あお釉)」


泰山式タイルは、兵庫県庁西館の建物入口付近に使われています。日本のタイル業界で泰山製陶所が初めて製造した「四丁掛けの施釉タイル」です。独自サイズとして1950年頃に開発され、様々な建物で使われました。釉薬は「葱あお釉」です。ガス窯で焼成された際、よりしっかりとした色合いが表現出来たことが人気となり、街に調和した緑色はたくさんの注文を受けました。この色は大佛組が作った大佛タイルや大佛美術タイルにも技術共有がされ、大佛組の代表的な色「大佛グリーン」としても日本中の建物を彩りました。村野藤吾が最も愛した色とも言われています。(坂倉準三はもう少し薄い方がいいな、と言ったとか言わなかったとか。笑)
2-3.「日亜建材株式会社」(住所:神戸市灘区城内通4丁目8-4)


兵庫県庁西館に泰山式タイルを施工したのは「日亜建材株式会社」です。よく勘違いされることでありますが、泰山製陶所直轄の受注であっても、泰山製陶所の社員が現場に出向いて作業を行う訳ではなく、地域の建材業者を通じて左官を手配し施工されました。
こちらの会社の社屋には、な、ななな、なんと「四丁掛け施釉タイル」がずらーーーっと、張られています。全て泰山式タイルです。圧巻ですね。会社の関係者にお話を伺うと、阪急電車の高架線路が産業遺産に認定され、調査や見学に多くの人が来られている。ただ「タイルを見に来た人は初めて」とのことです。笑
会社に残されたタイルには「上部分が切れた三重丸に泰の字」の手押し刻印(中判)も確認できます。だんご張りなのも興味深いですね。
2-4.「ガラスの格天井」


兵庫県庁の3号館には、泰山製陶所の集成モザイクに影響を受けた三浦啓子さん(ガラス造形作家)が作った「ロクレール技法」による「ガラスの格天井」が設置されています。平日は見学が可能です。
また兵庫県公館の南玄関ポーチの両側に県木のクスノキをテーマにしたロクレール作品(三浦啓子作)も設置されています。一般開放は毎月第二第四土曜日の10時から16時まで。事前予約不要無料。どちらも泰山式タイルに縁のある素晴らしい芸術作品なので合わせてご覧いただきたく思います。
3.「吾妻屋(あずまや)」(住所:神戸市中央区元町通5丁目8-7)

今回のツアーでは事前に告知をしなかったシークレット訪問地があります。元町通5丁目商店街の老舗お煎餅屋「吾妻屋」さんです。
3-1.「まるで竹です!」
こちらのお店の菓子箪笥(ショーケース)に泰山式タイルが張られています。まるで竹です!泰山式タイルはカラフルタイルや布目タイル、凹凸のあるレリーフタイルが一般的だと思われていますが、最も多く作られたタイルはボーダータイルなのです。しかも竹に見えるよに釉薬の色合いも徹底的に調整され、窯変の斑により竹の質感も表現した「究極の陶磁器製品」でした。
3-2.「張り方と目地」
注目したいのは、張り方にもこだわっていることです。左右のタイルをくっ付けて張り、まるで竹の節を表現するように工夫されています。節にあたるタイル端部分には「あえて釉薬を厚く塗り」より竹の節に見えるようにしています。そのこだわりは「目地の間隔、深さ、色」にも表れ、調度品の域を超えた芸術品です。

3-3.「泰佑さんの記憶」
池田泰佑さんと柏原の対談企画「泰山タイルってなに?」にて、泰山製陶所の珍しい製品について話したことを思い出します。
池田泰佑さん:「暖炉(マントルピース)や、飾り棚の他、机、箪笥、燭台、カーテンレール、菓子箪笥(ショーケース)などにも泰山式タイルが張られました。子供の頃、学校から帰宅すると、祖父(泰山)が工場で、菓子箪笥を作っていた記憶があります。」
こちらの菓子箪笥(ショーケース)に張られたボーダータイルは、商品ランクの中でもかなり質の高い「特級品」です。タイルの形状(膨らみ具合)、艶と斑、美しさのバランス、これだけ質の高い泰山式タイルを街なかで見られることは稀です。吾妻屋さんの泰山式タイルは、特約店の取引資料から明らかになりました。
3-4.「柏原からのお願い」
吾妻屋さんに行かれた際には、必ずお買い物をして下さい。お煎餅がちょー美味しいです。自分で食べても家族や友人へのお土産でもオススメです。1枚からでも買えますが、10枚、20枚と何枚でも購入出来ます。吾妻屋さんがあってこその泰山式タイルとショーケースです。ご主人ひとりで切り盛りされていますので、お話をされる際には他のお客さんへの配慮をお願いします。
たくさんの泰山タイルファンに訪問して頂き、吾妻屋さんが末永くお商売を続けられることを応援させて頂きたいと思っています。泰山式タイルが繋いだ縁を大切にし広げていきたいと思います。SNSで紹介して頂く際には、必ずそのことを書いて下さい。どうぞよろしくお願いします。
4.「かとれあ美容室」(住所:神戸市中央区栄町通2丁目8-10)

元町商店街から南京町(中華街)へ。かとれあ美容室さん入口に、僅かに泰山式タイルが残ります。元は建物前部分全体を覆っていたのだとか。
4-1.「阪神淡路大震災の影響」
神戸は阪神淡路大震災の影響があり、街なかに残るレトロタイルは僅かです。ちなみに納入施工リストに名前がある建物(一般住宅)を訪ねたところ、約50箇所中、現存は僅かに3個所でした。
4-2.「煮えたぎる金色、でも評価は低い」

ボーダータイル、茶金釉。吾妻屋さんのタイルと同じタイルですが、製品ランクが違います。「通常品」くらいでしょうか、っと言いつつも、よく見ると物凄い窯変が確認できます。煮えたぎるような金色です。今は窯変が魅力的ですが、製作当時は“奇抜”と感じられ、製品ランクの評価は低いものでした。
5.「チャータードビル」(住所:神戸市中央区海岸通9-2)

続いて旧居留地エリアへ。この街の建物の多くに、泰山式タイルが納入施工された記録が残ります。ただし内部が改装され現存は数少ないのかな?と感じています。現在調査中です。泰山式タイルが納入施工され、現存している建物をご紹介します。泰山式タイルが残っているか不明な建物も含みます。「シティバンク神戸支店」、「商船三井ビルディング」、「神港ビルヂング(川崎汽船本社ビル)」、「チャータードビル」。シティバンク神戸支店はヴォーリズ建築、商船三井ビルディングは渡辺節、村野藤吾、三人とも泰山製陶所と縁がある建築家です。
5-1.「青失透釉の斑は窯変ではありません」

泰山式タイルの現存が唯一確認出来ているのが「チャータードビル」です。ビル4階部分が世界的デザイナーのギャラリーとして活用されており、毎週金曜日から月曜日の正午〜18時まで無料公開されています。ギャラリーの一画に泰山式タイルが張られたマントルピース(飾り暖炉)が残ります。(茶色のタイルは不明です。)

ボーダータイル、青失透釉。この釉薬の特徴は、ベースとなる釉薬(この場合は青色)から、失透釉(様々な色が混ざった光沢のある透明釉)が浮き出てくるようなタイルに仕上がることです。失透釉を語る際に注意したいことは、失透釉の斑は窯変ではないことです。あくまでも釉薬の化学変化による発色であり、窯変ではありません。失透釉は焼成温度の管理具合でタイル表面がガラス化し易いことも興味深い点です。タイルを指で撫でて頂くと、泰山式タイル特有の膨らみと表面の質感を感じて頂けます。
5-2.「泰山式タイルと泰平タイルが併用」


ギャラリーから屋上階へ上がる階段には、布目タイルが張られています。こちらは秩父あお釉。ただし泰山式タイルだけではなく、泰平タイルも含まれます。納入施工リスト上では、役物タイルが泰山式タイル、布目タイルが泰平タイルと表記されています。
尚、泰山製陶所の釉薬名「あお」は「青」とは書かず、ひらがなで「あお」です。
5-3.「ギャラリーとカフェ」


こちらのギャラリー「VAGUE KOBE」はあくまでもギャラリーとして使われている場所です。泰山式タイルの見学ありきではなく、ギャラリーを見学させて頂く延長上に施設に入らせて頂くことを大切にして下さい。ギャラリーで展示されている作品は素晴らしいものばかりです。ギャラリーや屋上階ではカフェ利用やセレクトされた商品の購入も出来ます。是非ご利用下さい。
5-4.「商船三井ビルディング」

旧居留地と言えば「商船三井ビルディング」です。本当に素晴らしい建物です。再開発の話が聞かれますが、なんとか残して頂きたい建物ですね。
こちらの建物にも泰山式タイルが使われた記録が残りますが現存は確認出来ません。記録上はマントルピース(飾り暖炉)と集成モザイクタイルが納入施工されています。集成モザイクタイルは貴賓室に設置されたことが判っています。集成モザイクタイルを写した写真は泰山製陶所が発行した絵葉書にも使われました。ちなみに商船三井が運行した船の船内にも泰山式タイルが使用されたことが判っています。
5-5.「商船三井ビルディング建物内へ」


関係者以外建物内に立ち入ることは出来ませんが、関係者に友人がいる柏原は建物内に入ることが出来ます。
タイルなのか大理石なのか判りませんが綺麗にモップ掛けされた通路です。トイレと水回りにはモザイクタイル(製陶所不明)が張られています。正方形ではないところが興味深いです。

階段装飾が「渡辺節っぽい雰囲気ですね。」とか言いたいのですが、建築については素人なので、なにも言えません。笑
6.「神戸税関本関庁舎」(住所:神戸市中央区新港町12-1)

チャータードビルから次の目的地まで徒歩10分ほど。途中、神戸税関本関庁舎の前を通ります。立派な建物ですね。


神戸税関一階のモザイクタイルは山茶窯製陶所製、外壁タイルは大阪窯業製との記録があります。一階部分は一般公開されており見学が可能です。
山茶窯製陶所(つばきがませいとうしょ)とは、小森忍によって愛知県瀬戸市に開かれた製陶所です。小森忍と池田泰山は美術タイルの二大巨頭として知られますが、タイルに関する情報は、池田泰山同様、誤りが大変多くなっています。「っと言われている」、「誰が言ったか判らない噂程度の情報」、「口伝」が大多数を占め、その情報の扱いには注意が必要です。有識者や研究者の言葉をそのまま信じず、ご自身の目と耳で調べることが大切です。タイルから見る小森忍ではなく、陶磁器から見る小森忍を知ることをオススメします。
小森忍は池田泰山とは違い、自身で「美術タイル」と言う言葉を使っていることも興味深い点です。
池田泰山は「美術タイル」と言う言葉を使っていません。池田泰山が書いた文章や泰山製陶所が残した公式資料、カタログには美術タイルと言うワードが出て来ないのです。一部、建築関連雑誌の広告に美術タイルと言う表記がありますが、泰山製陶所の広告には「誇張」や「でっち上げ」など、とても多くの誤りがあり検証なしでは参考にすることはできないのです。当時の広告は広告代理店が口頭で集めた内容を文字化したもので、広告が掲載されたのちに集金に行くスタイルでした。泰山製陶所の場合は特約店や取引先が広告を出していることもあり、商品が売れることだけを考えた内容は実態が伴っていないものばかりです。こちらはまた別の機会に。
7.「KIITO デザインクリエイティブセンター神戸(旧 神戸市生糸検査所)」(住所:神戸市中央区小野浜町1番地)


こちらの建物には、様々な種類の泰山式タイルが納入施工されています。外装タイルにも泰山式タイルが施工されるなど、建物全体に相当なお金を掛けていることが判ります。
※ ⑤外装タイルは現在は新しいタイルになっており、泰山式タイルではありません。⑪筋タイル(白マット釉)の現存は確認できていません。
7-1.「陶製立体物」
まず注目したいのは建物入口上部に飾られた陶磁器装飾です。特注による陶製立体物として製造されました。生糸に関連した「まゆ」の意匠と言われていますが、泰山製陶所に残る資料からは意匠に関する詳細は判りません。

この陶磁器装飾は二種類作られました。通常形と半分形です。それぞれに「茶金釉」と「秩父あお釉」が塗られた形があります。茶金釉と秩父あお釉はその釉薬名も含め、泰山製陶所のみで使われたオリジナル釉薬です。釉薬名からも泰山製陶所で製作されたことが間違いないことを表します。
また泰山製陶所が得意とした「石膏型から手起こし」した「精巧な美しさ」も感じられます。意匠の細部にまでしっかりと土が詰められ、釉薬が重ねて塗られていることが判ります。泰山製陶所の釉薬は基本的に4回重ねて塗られますが、その4回目には「筆の走る方向(釉薬の流れ)」にも表現が及びます。これだけレベルの高い仕事が出来たのは泰山製陶所以外にはありません。


記録上では、茶金釉、秩父あお釉、それぞれ陶磁器装飾があったことになっていますが、現在の状態を見ると、二つの釉薬が「相掛け」された「まだら模様」になった種類もあるのかな?と感じます。釉薬が剥げている部分もある為、下地の釉薬が見えているだけの可能性もあります。ただし泰山製陶所では窯変とは違う「複数の釉薬を相掛けする表現方法」も行っていた為、その可能性は捨てきれません。
いずれにしても、当時の最先端技術がこの陶磁器装飾に取り入れられていることが判ります。
7-2.「細部までこだわった内装タイル」

次に建物内部の泰山式タイルに目を向けます。記録では一階入口エントランス、通路、階段踊り場に泰山式タイルが使われています。ただし大部分が改装され、現在は北側「入口」と、南側「通用口」の二箇所のみに泰山式タイルが残ると思われます。
共に普段は非公開部分です。こちらの場所は建築公開イベントなどで公開されることもあるとのことですので、見学をされたい方はその機会をご活用ください。

布目タイルは、⑥秩父あお釉、⑦こげ茶釉、二つの種類があり、共に現在も確認することができます。一部、市松模様で張られている部分も見られます。泰山製陶所のこだわりのひとつです。
タイルを施工する際、通常の現場は左官職人にある程度の権限が与えられ、左官職人の技術やセンスにより自由に張られます。しかし池田泰山はそれを好まず、出荷前、施工を想定し全てを一度並べた上で、張る順番通りに木箱に詰められました。現場の左官職人はそれを指示通りに張っていくのみだったのです。
泰山製陶所が特約店を通した理由には、その指示に従える左官職人を手配する為でもあります。指示に従えなかった職人は次回から依頼がされなかったとも聞きます。それほど池田泰山の美しさに対する思いやこだわりは凄まじいものでした。
7-3.「珍しい形の役物タイルと筋タイル」

壁に張られたタイルに注目します。泰山式タイルとしてはとても珍しい形の「⑧役物タイル」を見ることが出来ます。三角のような台形のような、多面体の形をしたタイルです。布目柄が付いており、こちらも石膏型から手起こしされたことが判ります。記録上では伊羅保釉が使われていますが、焼成が上手く行かなかったのか、それとも意図的なのか、タイル全体が焦げているようにも見えます。
その下には「⑨筋タイル」が張られています。このタイプの筋タイルは街なかで時々見かけますが、ほとんどの場合は泰山式タイルをモデルにした「泰山まがい」のタイルです。泰山式タイルの筋タイルが見られることはかなり珍しいのです。「泰山まがい」と言う言葉は、昭和初期の文献にも登場し、当時から泰山式タイルが特別な物であり、模倣品やいわゆる偽物が多く出回っていたことが判ります。泰山式タイルは一流ブランドであり、ある意味、現在のルイヴィトンのような存在だったのかもしれません。

こちらの筋タイルは本物の泰山式タイルです。なぜならば同じ筋型を複数確認することができ、間違いなく手起こしによる石膏型から作られたことが確認出来ます。釉薬の塗り方や、張り方を上下左右工夫することで様々なバリエーションがあるように見えるのも泰山製陶所のこだわりです。
泰山まがいの筋タイルは乾式素材(磁気質)の機械プレスによる形成の為、タイルの外枠が鋭角になり、筋に著しく焦げが見られます。釉薬は泰山式タイルに近い色も存在しますが、茶色が薄く(品が無い)、青が燻む(どす暗い)ような発色です。()内の言葉は、泰山製陶所が「泰山まがいのタイルを表した言葉」をお借りしました。
7-4.「目地に注目」
この建物におけるタイルの張り方で極めて注目をしたいことがあります。「目地」です。
手起こしにより形成されたタイルは、焼成の際、生地内部に残る空気が「熱により膨らむため」、仕上がりサイズに若干の変化が生じます。7.5号角サイズのタイルは、時に8.0cmを超えるような膨らみが生じることもありました。建築でこの「5mm」の違いは大事です。ましてや連続して複数張られるタイルがそれぞれ5mm違えば、建物が傾く所の騒ぎではありません。
その“ひずみ”や“ゆがみ”を解消する方法が、幅が広い目地でした。泰山式タイルが張られた場所の平均点な目地間隔は13mmほど。この13mmがタイルの5mmを吸収し、帳尻を合わせることが出来たのです。
立命館大学校舎の外壁に泰山式タイルが張られた際、「タイルの枚数が足りなかったから目地を太くして誤魔化した」様なことが言われていますが誤りです。泰山製陶所が公式に出しているカタログにも、この目地の幅について言及があり、施工時のこだわりのひとつとして紹介されています。
泰山式タイルが施工された幾つかの建物には「カラー目地」が存在する所以でもあります。つまり池田泰山は目地をも「美しく見せる」ことを美学としていました。この幅広目地はひとつのトレンドとして、他の製陶所でも採用されました。

では改めて布目タイルが張られた部分を見てみましょう。目地が狭い…。笑
実はこの目地が狭いのは、ひとつひとつのタイルのサイズが均一な証拠です。つまりタイルがとても精巧に作られている訳です。これは「製品のランクが高い」タイルが集められている証拠です。
7-5.「製品ランク」
泰山式タイルにはその出来栄えによって「松竹梅捨」のランクに分けられていました。戦後は「特級・通常・B級・規格外」と言われていましたが、4つのランクに分けられ、価格や納入施工される場所が細かく決められました。
兵庫県の建物に納められた泰山式タイルは、特級ランクが大多数を締めます。これが先程ご紹介した「特約店」の影響力なのです。
特級品の第一条件はサイズの均一さと、色斑が安定していることです。当時は過度な窯変斑は好まれませんでした。現在の価値観とは逆です。
つまりサイズが均一であった為、サイズの不揃いを目地で調整する必要がなく、結果的に目地を狭くすることが出来たのです。この建物では泰山式タイルの様々な側面を見ることが出来ます。
余談ですが、泰山式タイルにも「目地が狭い」、もしくは「無い」くらいの施工がされている建物が幾つかあります。東京方面の建物が思い浮かぶ人もいるかと思います。例えば、旧李王家邸、旧朝香宮、渡辺甚吉邸などです。建物的にも特級品の泰山式タイルが納められていることは間違いありませんが、この目地の狭さは、別の理由によるものです。それは東京編のレポートにて。
7-6.「使われた場所は皇室関連のみ!?黒マット釉」

南側の通用口では、もう一種類、別の泰山式タイルを見ることが出来ます。黒マット釉が施された筋タイルです。かなり珍しい型です。柏原が同じ泰山式タイルを見たことがある場所は皇室関連の建物のみです。このタイルを見た際、改めてこの建物がどれだけ凄い建物であったかが判る瞬間でもありました。
7-7.「泰山製陶所はスクラッチタイルを作っていません!」

外装のスクラッチタイルは「日本陶業製」です。以前までは「スクラッチタイル」=「泰山タイル」のようなイメージがありましたが、柏原が狂ったように異論を叫び続けた結果、その誤った情報はかなり沈静化したと思います。改めて、
「泰山製陶所はスクラッチタイルを作っていません!」
最後に
最後まで読んでいただきありがとうございました。神戸には泰山式タイルが意外と残っています。「あの場所もそうかな?」と言う調査中のスポットもまだまだあります。新しいことが判り次第、順次レポートさせていただきます。
改めて、見学の際は最低限のマナーとモラル、街と街の人への配慮をお願いします。どうぞ、よろしくお願いします。